
全 邦釘
2003年東京大学工学部土木工学科卒業,2005年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了,2010年Wayne State University博士課程修了(PhD),2010年5月~11月韓国Yonsei大学Research Associate,2010年12月愛媛大学大学院理工学研究科助教,2016年4月愛媛大学大学院理工学研究科准教授,2019年4月より東京大学大学院工学系研究科特任准教授
研究内容
AI,ICT技術を活用したインフラ維持管理に関する研究
近年,橋梁やトンネルなどの土木インフラ構造物の老朽化,およびそれに伴う損傷の増加が深刻な問題となっています.このような事故を防ぐためには,適切に維持管理を行う必要がありますが,例えば橋梁の総数は日本国内だけでも73万橋以上であり,膨大な労力・コストがかかってしまいます.


図1 橋梁崩落の事例
そこで,AIやICT技術を活用し,インフラ維持管理を高度化するための研究を本研究室では行っています.例えばドローンや赤外線カメラで撮影してきた画像について,ディープラーニングを活用して損傷の位置を調べるようなアルゴリズムの開発を進めています.この手法は,鉄道会社のトンネルや,電力会社のダムなどで実用化がはじまりつつあります.



図2 損傷検出事例
また,インフラ撮影画像の説明文を生成するAIについての研究も先駆的に進めています.これにより,その写真の意味するところが人間にわかりやすくなり,またこれまでの長い土木工学の歴史で蓄えられてきた膨大な文章資産とAIの連携が容易になります.

図3 損傷状況説明AI
また,電磁気学を活用した新たな点検器具の開発も行っています.例えばサビを落とさず,非接触で,かつ空気中水中問わず鋼材の残存性能を点検できる器具を開発し,また崩落事故が発生した四万十市の岩間大橋において実務で活用しました.このテーマは,電磁気学の面からも先進的な点検器具の研究開発および製作と,精度検証,実務への活用といった,革新的かつ一気通貫な研究であると認められ,2020年度にイギリス土木技師学会(Institution of Civil Engineers; ICE)の論文賞であるTelford Premiumを受賞しています.




図4 四万十市・岩間沈下橋の損傷の様子と,開発した点検器具を用いた計測の様子
このように,インフラ維持管理にAIやICT技術を活用する研究を継続的に行っています.今後は点群データや3次元モデルのさらなる活用など,今までとは次元・概念の異なる維持管理手法の実現を目指して研究をすすめています.
インフラデータプラットフォームの開発と利用
近年の情報通信技術の進歩により,データの取得,蓄積,活用の枠組みが大きく変化しはじめています.例えば土木工学分野であれば,動画/画像取得技術やセンシング技術の発展,BIM/CIMの普及に伴うデータの精緻化や多様化とデータサイズ増加,通信速度向上・インターネットの普及に伴うクラウドコンピューティングの性能向上,AIやFEMなどに代表される解析技術の発展によるユースケースの増加などが挙げられ,このような変化に対応するためにデータプラットフォーム技術の導入,発展が求められています.
そこで,本研究室では,地中レーダを搭載した車両による計測と,Deep learningによる解析を組み合わせ,地下の埋設物を検出する手法についての研究を進めている(図5).またこの結果を国土交通データプラットフォームと連携させるための方法論についても研究を進めているところである.

図5 地下埋設管3Dデータベースの構築
また,このシステムは,自動化された建設機械と連携することで更に威力を発揮する.埋設管の位置がわかれば,建設機械にその情報を送ることで,掘る際に埋設管を壊さないように注意しながら制御することができます.



図6 自動建機が埋設管を避けて掘削している様子
他にも,どのようにすれば各種連携が適切に機能するか,データをどうすれば有効活用できるか,様々な研究課題を本研究室では進めています.
主な研究業績
- Chun, P. J., Izumi, S., & Yamane, T. (2021). Automatic detection method of cracks from concrete surface imagery using two‐step light gradient boosting machine. Computer‐Aided Civil and Infrastructure Engineering, 36(1), 61-72.
- Chun, P. J., Ujike, I., Mishima, K., Kusumoto, M., & Okazaki, S. (2020). Random Forest-based evaluation technique for internal damage in reinforced concrete featuring multiple nondestructive testing results. Construction and Building Materials, 253, 119238.
- Chun, P. J., Yamane, T., Izumi, S., & Kameda, T. (2019). Evaluation of tensile performance of steel members by analysis of corroded steel surface using deep learning. Metals, 9(12), 1259.
- Chun, P. J., Tsukada, K., Kusumoto, M., & Okubo, K. (2019). Investigation and repair plan for abraded steel bridge piers: case study from Japan. Proceedings of the Institution of Civil Engineers-Forensic Engineering, 172(1), 11-18.
- 山根達郎, 全邦釘, & 渡部達也. (2021). Deep Learning による橋梁撮影画像からの損傷状況説明文の自動生成. 土木学会論文集 F3 (土木情報学), 77(2), I_40-I_50.
- 土木学会構造工学委員会. (2019). 「これだけは知っておきたい橋梁メンテナンスのための構造工学入門」,建設図書.